一般に、ALS は 2〜3 年のうちに自分の力では呼吸できなくなくなり、死を迎える疾患である。 ここに、人工呼吸器の使用なしで 20 年間生存し得た例を示す。 臨床的には、上位運動ニューロン徴候を全く示さなかった(progressive spinal muscular atrophy の診断)。 上位運動ニューロンの変性を欠く ALS は存在するのか? また 20 年もの長き間、生存できる ALS はあるのか? 
図A: その頸髄。 側索(皮質脊髄路)に明らかな変性が指摘できない。 前角は軽度に萎縮している。 本例の運動野では Betz 細胞の脱落は指摘できなかった。
図B: 頸髄の Sudan III 脂肪染色。 側索に陽性脂肪滴(ミエリンの変性、崩壊を意味する)は認められない。
図C: 腰髄前角。 萎縮はあるが比較的軽度の前角細胞脱落。 Neuropil にグリオーシスはあるが、その像はそれほど強く、激しいものではない(この辺の読みには、多少なりとも神経病理の経験が必要)。
図D: 残存前角細胞に Bunina 小体(左)。 同様に skein-like inclusion (右)。 本例は、 Bunina 小体や skein-like inclusion の存在からその病態は lower motor neuron-predominant の ALS として扱ってよいと思われる。 また、上位運動ニューロンに変性を確認できなかったが、真に lower-motor neuron disease が存在するとの考えは、はなはだ疑問であり、より詳細な検討が必要である。